ロンドン市長に初のイスラム教徒 

住民の多様化が後押し

渡辺志帆=ロンドン、伊東和貴2016年5月18日04時59分

 f0013998_933146.jpg英ロンドンで5日にあった市長選で、初めてイスラム教徒の市長が誕生した。パキスタン移民2世の労働党下院議員サディク・カーン氏(45)だ。相次ぐテロの余波で、欧米で反イスラム感情が高まる中での勝利。背景には何があったのか。

 2期8年務めた保守党のボリス・ジョンソン前市長(51)の後任を決める選挙は12人が立候補。事実上、上流階級出身の保守党下院議員ザック・ゴールド
スミス氏(41)と、移民家庭から人権派弁護士になったカーン氏の一騎打ちだった。

 保守党陣営は、カーン氏を「イスラム過激派」になぞらえるネガティブキャンペーンを展開した。

 ゴールドスミス氏は大衆紙に「労働党が勝てば、過激派を正当化する候補を立てる政党に警察行政や対テロ政策をゆだねることになる」と寄稿。記事は過激派による2005年のロンドン同時爆破テロで大破した路線バスの写真とともに掲載された。キャメロン首相も「労働党候補に懸念を抱いている」と、カーン氏が過激派に近いという印象を発信した。

 近年、欧州では過激派組織「イスラム国」(IS)に共鳴するグループによるテロ事件が続発。昨年8月の英YouGov社の世論調査では、3人に1人が「イスラム教徒のロンドン市長」に不快感を示した。米大統領選で「イスラム教徒の入国禁止」を訴える不動産王ドナルド・トランプ氏が共和党の候補者指名を確実にするなど、反イスラム感情の高まりは欧米共通の現象だ。

 だが最終的にはカーン氏が約131万票を獲得。約99万4千票のゴールドスミス氏に圧勝した。投票率は46%で、前回12年を8ポイント上回り、関心の高さを示した。

 なぜカーン氏は勝てたのか。
 背景には、ロンドンという街が培ってきた「多様性」がある。
 これまで、旧植民地や欧州連合(EU)加盟国から多くの移民を受け入れてきた。11年国勢調査によると、人口817万人(当時)のうち約37%が英国外生まれだ。「英国籍の白人」は約45%にとどまる。イスラム教徒も100万人以上で人口の12・4%を占める。

 カーン氏自身が、そんなロンドンの多様性を体現する存在だ。地元のモスク(イスラム教の礼拝所)に通い、戒律に従って酒は飲まない一方、イスラム教が認めない同性婚を支持するリベラルさを併せ持つ。カーン氏は英誌に「私たちはみんな、複合的なアイデンティティーを持つ。信仰は私の一面にすぎない」「私はロンドン市民で英国人、イングランド人、パキスタン系アジア人、父親で夫。(サッカークラブの)リバプールファン、労働党員、そしてイスラム教徒だ」と語った。

 ロンドンでは伝統的に労働党が強いことや、庶民目線の行政手腕が期待された面もある。
 保守党陣営の戦術は、党内からも「市民の分断をあおる」と批判が噴出。ゴールドスミス氏の支持離れを招いた。カーン氏は当選後、「市民が恐怖より希望を、分断より団結を選んだことを誇りに思う」と語った。
 ロンドン大学経済政治学院のトニー・トラバース教授(政治学)は「マイノリティー出身の市長を嫌ってカーン氏に投票しなかった人がいた一方で、ロンドンが民族や信仰に寛容な都市である象徴として、あえて投票した人もいたのではないか。ロンドン市民もテロを懸念しているが、市長を選ぶ判断には影響しなかったということだろう」と分析する。

 日本に住んで十数年になるインド系英国人のヴィアス・ウツパル立命館アジア太平洋大学准教授(国際政治学)は、「移民2世の若者の良い手本となり、外国にルーツを持つ英国人が政財界の要職につく流れを後押しするだろう」と指摘。今回の選挙を日本に置き換えると「移民2世の東京都知事が誕生するようなものだ」と言う。日本でも、そんな日は来るのだろうか。
 ヴィアス氏は「近い将来にはありえない」とみる。「政党が多様な地方議員の擁立に動き、市民も支えることが必要になるが、日本では社会の多様性を深めることが歓迎も推進もされていない。今は女性議員を増やすことの方が優先順位が高く、民族・宗教的マイノリティーの日本人が地方政界のリーダーとして活躍するのは、まだまだ先だろう」
(渡辺志帆=ロンドン、伊東和貴)
by saitoru1960 | 2016-05-19 04:22 | いろいろ

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