派遣職員の実態

職場では時々、組合の新聞が回ってくる。
その中に興味深い記事があったので、以下に掲載します。
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派遣労働の実態

○月○日(日)、神戸市中央区の一流ホテルで客室清掃・ベッドメイク☆
※9:30~15時、時給850円+交通費支給
※三宮から無料送迎バス☆
※友達・カップル・親子OK!誰にでもできる簡単軽作業☆
※行ける方は××(078-123-4567)にTEL下さい!

希望される方は下記のURLにアクセス!
http://www.abcdefghijk/012345/

××・△△(株)

上のメールは、ある派遣労働を提供する会社から、登録した「契約社員」の携帯に送られてきたメールです。テレビでもCMでも「軽い」感じで時間を有効に活用して収入を簡単に得ることができるように紹介されていますが、果たしてその実態は…?

第1回 働きたいときだけ働く?

こんなCMをご存知だろうか?
若い女性がショーウインドウを覗き込み、素敵な鞄を見つける。
「欲しいなあ、でもお金ないなあ、そうだ!」
彼女が鞄を手にするために思いついたのは、とある派遣請負会社である。そこに連絡すると明日の勤務先を紹介してくれ、そこで明日働き、夕方にはお金をてにして見事憧れの鞄を自分のものにする、という筋書きである。

「働きたいときだけ働く」
こんな労働スタイルが今、結構流行なのだとか。でも、これはよく考えると何も新しい労働形態ではなく、古くからある「日雇い労働」である。次の仕事まで数ヶ月、ぽっかり穴が空いてしまった時間を有効に使えるわ、どんな仕事をするんだろう、と持ち前の好奇心も手伝い、さっそく体験してみることにした。
なんどか勤務するうち甚だしい矛盾を感じ、結局足を洗う(?)のだが、その時の体験は「格差社会」「ワーキングプア」など、最近世間で取りざたされている深刻な問題を考える大きな判断材料となりそうな気がするので体験記を残すことにした。

「3252の○○です」
日雇い労働の一日は派遣請負会社への連絡から始まる。
「おはようございます。今から(昨日紹介された)□□会社へ向います」
派遣されるのは数名・数十名単位で、駅の改札などでまず集合し、昨日聞いた人数が集まったら皆で会社へ向う。集団が大きい場合、何度かその会社へ派遣された経験を持つ者がリーダー(責任者)に指名されていて、点呼をとっていることもある。集合といわれても目印もないし知りあいもいない。なんとなく人が集まっている所へ近づいて様子をうかがい、近くにいる人に派遣請負会社の名を告げて確認できればその集団に加わることになる。集団にいる人達はみな携帯を握り締め派遣請負会社へと連絡をとっている。

「6745の△△です。今から勤務先へ向います」
昨日契約をしたし家を出る前に連絡もし、あれから1時間くらいしか経っていない。仕事が欲しくて問い合わせて、朝ちゃんと目覚めて連絡したのだから会社に行くに決まっているではないか。しかもリーダーが点呼をとっているのになぜ皆ここに連絡するのだろう。携帯代もバカにならない、だから、わたしは連絡せずほっておくことにした。すると派遣請負会社の方からわたしの携帯に連絡が来る。
「到着しましたか」
初めて行く勤務先に無事到着できたか心配してくれているのだと解釈していたが、何度かこの仕事をするうち、心配の中身にわたしの解釈以上の意味があることに気づく。


第2回 工夫などする必要は全くない!
「エスケープなどせずホントに仕事をするのか」
わたしはホントに道に迷いそうな時以外自分で連絡することは一切なかったので、さぞいいかげんな奴と判断されていたことだろう。

会社へ到着するとエプロン・軍手・カッター・マジックペンなどすべて自前で用意した作業道具を身につけ、職員朝礼の輪へと向う。マジックインキなどは私の家には常備しておらず、日雇いバイトのために買うのもバカバカしい。しかもちょっとメモをとるためのペンなどとは異なり、用意したマジックペンはものすごく消耗しそうである。そんなのもったいないわ、とセコイようだが私は忘れたふりをした。都合よくその日限りの人員を薄給でかき集め、消耗品まで自前にさせようとする企業に対する私のささやかな抵抗だ。ここでも私は、仕事道具を忘れてくる不真面目な奴と判断されたはずである。

朝礼が終わり、社員が私らを適当に各部署へ配属していく。
「そこのあなたとあなた、そこの赤いエプロンの人、こっちへ来て」
ホントに適当、名前すらいらない、誰でもいいのだ。今日頭数を集めただけの海のものとも山のものとも知れない労働者なのだから当然といえば当然だが。
これら朝礼の時間は勤務時間ではないので当然給料は支払われない。

配属された部署で作業手順を聞き、いよいよ仕事開始。私が体験した仕事、顔見知りになった人が教えてくれた過去にした仕事はだいたいこんな感じだ。
○ベルトコンベアーに乗ってくる籠にビニールをかける→スーパーの宅配用
○番号がたくさん書いた紙を配布され、その番号の品物を棚から探し出し、自分に与えられたカートの中に入れる。→全国の100円ショップからの注文の品を揃える。
○商品の箱にシールを貼る→「新発売」とか「お買い得」とか
○値札をつける→百貨店で販売
○冷凍難バーグ・野菜・冷凍スープなどのパッケージを1つずつに分けて籠に入れる。→全国のファミリーレストランへ配布

他にももっとイロイロあった気がするが、とにかく世の中には何でも仕事があるもんだと、配属されたり聞いたりするたびに驚いた。これらの労働を説明するにはすべての文頭に「ただひたすら」という言葉を補うのが適当であった。

朝礼の時、現場取締役のような社員がよく強い調子で「言われたことだけをしていなさい。工夫などする必要は全くない」と言っていた事を覚えている。確かにその日突然やって来た素性が全く分からぬ者達がめいめい創意工夫などをすればとんでもないことになるのは明白だが、とにかく決められた時間そこにいて決められたことだけをこなす、頭など全く使ってはいけない、そこには人間関係も全く存在しない、夕方になれば5000円そこそこの賃金を得る。(時給800円、交通費500円)。家でぼおっと過ごすより時間を有効に使って小遣いを稼ぐ、しかし、5000円以上の大事ななにかがものすごい勢いで私から削り落とされていく気がした。

第3回「ただひたすら」働く

作業手順を聞く時、社員に代わり過去にこの会社に配属されたことのあるものがリーダー(責任者)として私らに説明してくれることがよくあった。「責任者」となった彼らは社員から聞きかじった業界専門用語を巧みに交え、難しい仕事だが頑張ってほしいなどと言って私らを「指導」する。「指導」とは心地よいものなのか、彼らは大抵かなり得意顔で「指導」をし、私らを見て回って「注意」してくることもある。ある「責任者」は、バタバタと遅刻してきた女の子に対して、
「着いたらまず俺に“おはようございます”やろ、そして“遅れてすみません”やろ」
と叱っていた。

何度か同じ職場で働き、君が責任者だ任せるよ、などといわれると自尊心がくすぐられるのだろう。そして、その心理を最大限に利用し、薄給でも勤勉な労働者に仕立て上げる。しかし、彼らは「日雇い」である。日雇いだからいいかげんに仕事をしていい、というものではないがなにかが違う。

午前9時から働いて、「良い」会社だと10時半頃に10分程度の休憩が与えられる。トイレは現場から離れた所に1つか2つあるくらいだから、行って並んで戻ってきただけで休憩は終わりだ。それから12時か12時半くらいまで再び「ただひたすら」働く。
待望の昼休憩になると皆休憩室へと移動する。たいていはパイプ椅子と机が数個あるだけ、しかも早く行って場所を確保しないと冷たい床に座ることになる。窓もなく人が行き交いもできぬほど狭く、たばこの煙がモクモクとたちこめる。それはそれは劣悪な環境だ。

「タコ部屋」
どこかで聞いたことのある、古い時代の劣悪な労働形態を示す言葉を思い浮かべた。私はこの種の仕事をした時のほとんどは一人、会社の外に出て駐車場の隅っこや植え込みなど座れそうな場所を探し、青空の下で弁当を広げた。

この時間帯にほとんどの者が携帯を握り締め、派遣請負会社に連絡して明日の仕事があるかどうかを確認する。明日もある、といわれた場合、なにか勝ち誇ったような顔をする。明日は未定、といわれた場合、とにかくなにかないのかと詰め寄ったり、意気消沈したりしている。
ある時年配の女性が、
「☆☆さんには目をつけられないよう、嫌われないようにしたほうがいい」
と耳打ちしてきた。☆☆さんは気に入らない派遣労働者を見つけると、派遣請負会社に、「あの人は不真面目です。仕事ぶりがいい加減です」

などと派遣請負会社に告げ口をするそうだ。そして、告げ口されたものはあまり仕事が回ってこなくなり、その分が自分に回ってくると考えているらしい。
出世するために他者を貶めたり、ライバルの立場を悪くしようと立ち回る、などというのはいろんな世界であることかもしれないが、こんな所にも存在するのか。好意の真偽は、私が直視したわけではないので不明だが、そんな噂があることを知りかなり驚いた。

コセコセ立ち回ったり、悲壮感を漂わせて仕事の有無を確認しなくても、派遣請負会社からはその日連絡がなくても、数日後それこそ足を洗って(?)一年以上今でも、時々「明日ヒマか」と連絡が来る。

第4回 お金が貯まったらアルバイトをしたい

毎日同じ職場で働きたいのなら何故ここに来るのだろう。町を少し歩いただけでも「パート募集」などと掲げている店や会社がたくさんあるではないか。新聞広告やフリーペーパーをちょっと見ただけでも仕事なんていくらでもあるではないか。
それに、一日のわずか5000円ほどの仕事を得るためにこんなに何度も携帯を使って、携帯代と日給の差し引きがどれくらいになるか考えないのだろうか。

何度か顔を合わせた20代前半の女の子が、明日仕事があるといわれたけど明日だけは休みたいといったら、もう次の仕事は回せないかもしれないと返されたと落ち込んでいる。どうやら派遣請負会社は仕事が欲しそうなそぶりを見せると強気に出るようだ。私はちょっとおせっかいな気もしたが、
「正社員は難しくてもアルバイトならいくらでもあるのではないか、継続して働きたいのならこんな明日あるかどうかわからない仕事をしなくてもいいのではないか」
と提案してみた。

彼女は、
「お金が貯まったらアルバイトをしたい」
と答えた。私は全く意味が理解できなくて、それはどういうことかと聞き返すと、
「ここはすぐお金をくれるから」
とのこと。その日すぐに5000円をもらわないと今日のごはんを食べることができないほど彼女の生活は苦しいのだろうか。ちょっと話をしたくらいで彼女の背負う人生など理解できるはずもないので、話はそれ以上進めなかったのだが、周囲を見回しても彼女と同様、私の理解を超える人だらけな気がする。これはとんでもないところに迷い込んでしまったのかもしれない。

彼女は私との話を一段落させ、たばこを買いに行くために財布を取り出した。キティーちゃんのかわいい財布を開けた時、有名なサラ金会社のカードが入っているのが目に留まった。チラシでもティッシュでもない、銀行のキャッシュカードのようなプラスティックのカードである。彼女は財布の中身が寂しくなって私が銀行に跳び込んでキャッシュカードでお金を下ろすのと同じように、サラ金会社のカードを使ってお金を借りているのだろうか。彼女のいうお金の貯まる状態とはいくらくらいたまった状態を示すのかわからないが、おそらくこのぽっちゃりとしたかわいらしい彼女が自分の感性でいうお金がたまった状態になるのは相当難しいだろうなあ、と失礼ながら思った。

昼休みが終わり、「ただひたすら」働くことを再開する。三時半くらいに十五分程度の休憩があり、五時か六時くらいまで「ただひたすら」働く。そして就業時間が五時の場合、大半がその日の給料を貰うため、現場監督のような社員に確認印を貰い、大急ぎで6時に閉まる派遣請負会社へと向う。仕事疲れを癒すことも含めて、水・木あたりは仕事を入れないようにする人が多いのだそうだ。週の半ばの休養も結構だが、
「薄給をとりに行くため1日の仕事を削って収入がさらに減るとは思わないのだろうか」

何度か給料を取りに行くうちに20代前半の男の子たちが数人、事務所にたむろしていた。まるでコンビニの前でそうしているかのように。
「仕事をくれなくてもここに来てなんとなく一日を過ごす」
仕事がなければ友人と出かけても、家でビデオを見てもいいではないか。なんでこんな事務所を拠り所にするのか、なんだか彼らがものすごく寂しそうで気の毒な気がした。

さらに彼らの会話の中に、
「昨日仕事場へ行ったが“悪いな、今日は仕事ないわ”と言われて戻ってきた」
というのがあった。この事務所で仕事があるといわれたから早起きして身支度を整え交通費を使って仕事場に行ったのではないか。それはそんな調子でぼやく程度のものなのか、しかもこの事務所で。聞いている社員も「そうでしたか」などといって特に申し訳なさそうにしたり謝罪したりする風は一切ない。
激怒して事務所に殴り込んで行くくらいの醜い仕打ちではないか。ノコノコ事務所へやってきて、そうしてぼやくだけでいいのか。

「彼らは神経が麻痺している」
もうあまり深く考えないようにした。後から知るのだが「サブ」とかなんとかいって
、当日突然休む人の交代要員として勤務先へ行く、交代の必要がなければそのまま帰る、交通費500円支給、という労働形態があると知る。随分醜い扱いな気がするが、
「ちょっと行くだけで500円もらえる」
と結構喜んでいる子がいたりする。
「勤務先へ行く労力を換算したものや交通費を合算した金額と500円のどちらが大きいか彼らは計算できるのだろうか」
「やはりここにいると麻痺してしまう」

そして終業時に忘れてならないのが「連絡」である。
「3252の○○です。五時までの□□会社での業務、終了しました」
大抵の者は帰る道すがら携帯で連絡していたが、ここでもセコイ私は携帯代を節約するため自宅へ戻ってから料金の安い固定電話で連絡する。節約という意味より、安い日給で人間性を失う上に携帯代まで削り取られる気がする派遣契約会社へのささやかな抵抗である。

時々派遣請負会社から、
「業務は終了しましたか」
とホントに働いていたか確認する意味のこもった連絡がくることがあった。私は催促しないと連絡をよこさないホントにいいかげんな労働者である。
こういった労働を何度か体験するのだが、回を重ねるごとに上述したような理解の域を越える出来事が増えていく。それが自分の視野を広め、自身を向上させるものであればいのだが、ここでの経験はむしろ自分の良い部分がそぎおとされ、ランクを低め賤しい人間に貶められていく気がした。

第5回 オイシイ商売 派遣業

そして足を洗う(?)決定的な出来事にぶつかる。それは一日だけのある勤務先でのこと。そこには常勤の学生アルバイトがおり、彼らの話を聞いているとどうやら私の出身大学の学生らしい。これをきっかけにちょっと知りたいこともあるしと思い、大学名を使って彼らに話しかけてみた。ヘンなおばさんが急に声をかけてきた、と気持ち悪がられるかも、という不安をよそに彼らは結構人懐こくイロイロ話がはずんだ。

「このバイトに来てなんぼくらい貰うんですか」
輪達しが彼らに話し掛けたのは、この会社が派遣請負会社にいくら払っているかが知りたかあったからである。派遣請負会社はおそらくかなりピンハネをしているだろうけど、一体どのくらいなのか、彼らはここで日常アルバイトをし、社員との交流もかなりあるようだから、知っている可能性がある。どうやって話を持って行こうかと思案していた所、彼らから話しを出してきた。私は日給5000円くらいだと答えた後、

「これはかなりピンハネされた額と思う。この会社がいくら出しているか知っているなら教えてほしい」と素直に聞いた。
「チーフ(社員)の話では時給1500円くらい出しているはず…。すっげー!」
私も彼らもそのピンハネ率の凄さに驚いた。
私を紹介して一日送り込んだだけで、私が一日働いたのと同額のお金が派遣請負会社に転がり込んでくる。なんてオイシイ商売なんだろう!

大学生の彼らは、アルバイトなのにチーフ(社員)からイロイロ任されて、学校との両立が難しいから派遣に切り替えようかと迷っていたらしい。彼らの迷いはこの話題で一気に吹き飛んだようだ。

本来の仕事が始まったこともあり、私もそれ以来これらの仕事を一切していない。
by saitoru1960 | 2007-07-09 19:24 | いろいろ

心動かされたことを忘れぬように


by saitoru1960