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マーレ島ドッキリ大作戦

「○月○日、モルディブに行きます!何か欲しい物があれば教えてくださあい!」と教え子畑本から躍るような文字で書かれたハガキが突然届いたのは、日本からモルディブまでの郵便事情を知ってか知らずか、その到着2日前であった。

当時マーレ島で活動する協力隊員は17名。うち、選りすぐりの精鋭8名によって、日本とモルディブの距離感をイメージとして持ち得ないこの教え子に対して「マーレ島・夜のドッキリ大作戦」のミッションチームが、「はめたろ!」の合言葉のもと直ちに結成された。

マーレ島沖1kmに浮かぶ空港の島フルレに飛行機が到着するのは夜の11時47分。畑本は団体ツアーではなく、格安航空券のみを購入し、あとはこっちでわたし任せという、なかなか初海外旅行としては若さあふれる旅を選択していた。

手紙のあて先は協力隊事務所の私書箱あてになっているため、わたしが島のどこに住んでいるのか全く知らない畑本は、つまるところわたしが空港へ迎えに行かなければ即刻路頭に迷うことになってしまう。Act.1は「真夜中の空港・最終便後の孤独」がテーマとなった。

到着した初海外旅行畑本は、未知なる場所での不安な気持ちをかかえながらもとりあえず入国審査の列に並び、パスポートにハンコを押してもらって自由の身となると、重大目標の「サイトウ先生を捜す」にとりかかった。

一方、「サイトウの登場は最後の最後」を最大のポイントとして行動しているわれらミッションチームは、この場では全く姿を見せず、ひとりぼっちにしてビビらせること、を重大任務としていた。

到着してキラキラ輝いていた畑本の瞳は徐々に光を失い、周りにいた観光客達が出迎えの人達とそれぞれのリゾート島へ向かうボートに消えていくにしたがい、不安→困惑→迷走→絶望、と変化していった。

この間約20分。ほぼAct.1の目的を達成したと判断したミッションチームはシナリオどおり、Act.2にとりかかった。

「ハロウ!」、「ホワット ハプン?(どしたん?)」、「メイ アイ ヘルプ ユー?(なんかてーかしましょか?)」、船着場から近づいた3人の隊員が謎のアジア人と化し、畑本にコンタクトをとった。真夜中の断崖絶壁独りぼっち状態のところに、英語ではありながらも声をかけてもらったため、畑本は少しだけ肩を下げ、ここではじめて荷物を床に置いた。

木陰から遠巻きにうかがっていたわたしには、何語で何をしゃべっているのか分からなかったが、畑本はザックからハガキを取り出し、謎のアジア人達に見せて何か訴えていた。そこへ残りの謎のアジア人4人がディベヒ語、英語だけの会話でワイワイ混ざりながら畑本を取り囲み、その固まりのまま、マーレ島行きの船に、マッサラネティ、マッサラネティー(大丈夫だ、大丈夫だ)、と乗り込ませた。

マーレ島まで10分。サイトウが船の艫(とも)で船頭のおっちゃんの横にニヤニヤしながら隠れているとは、畑本はついぞ気づかなかった。

マーレにむかう船(ドーニ)には観光客の姿はほとんどなく、空港で働いて帰路につく人たちが謎のアジア人からディベヒ語でドッキリ大作戦実行中の説明を聞き、不気味なニヤニヤ笑いで畑本のことを眺めていた。

ポツンポツンと立つ街灯はわずかな光量しかなく、薄暗く静寂の船着き場に着くと客たちはそれぞれの家路についた。謎のアジア人達も「ここがマーレだ」と言い残し、それぞれ勝手バラバラな方向に消えていった。Act.3「うしみつどきの恐怖」ハジマリである。

畑本は動きようがなかった。手元にあるのはわたしから以前届いた協力隊事務所の私書箱が書かれたハガキだけである。畑本は誰もいない周囲を見回し、意を決したように薄暗い海沿いの道を歩き始めた。

少し歩くと前方にタクシーが一台停まっている。畑本はコンコンと窓を叩くと、下がった窓の中にハガキを突っ込み何かしゃべっている。運ちゃんはきいたことがわかっているのかどうなのか、ハガキを返し窓を閉めた。畑本はなす術もなくザックを置き、道に腰をおろし首をうな垂れた。万事休すである。

ミッションチームは笑いをかみ殺してのウヒョヒョ状態で路地の陰からAct.4へのGOサインを出した。謎のアジア人Aの登場である。路地から夜の散歩でもしているかのようにのんびり歩くいていくと、畑本の前を一度通りすぎ10mも行ったところで振り返り戻り、「キヒネビ?(どしたん)」と畑本の肩を叩いた。

一瞬ビクッとした畑本は疲れきった表情で少しだけ話すとハガキを渡した。Aがわからんなあ、というような顔で考えているところに、たまたま通りかかった風のBが、「キヒネビ?」と混ざってきて、それなら俺知ってるで、というようなやりとりを交わす。

Aは畑本に、「オーケーだ。こいつが知っている!」とジェスチャーで示すと、畑本の表情が瞬間的に曇天からサンシャインに変わり、Bの手を強く握りしめ、Aに何度も何度も頭を下げた。

直線で5分ほどの道のりを、あえて細い道ばかり選んでグルグル引き回した後、協力隊員の集会所(ドミトリー)に到着した。Bは鍵のかかっていない入口の扉を開けると、誰もいない部屋に勝手に入り込み電気をつけ、畑本を手招きして中に入れた。

なされるがままの畑本は疑いもせず素直に部屋に入り、「イシンデ(すわって)」とソファを指差されると素直に腰をかけた。すると、BはAとディベヒ語で二言三言交わし、「じゃあ」というような手を畑本にむかって挙げると家の外に出ていった。

いよいよラストActのはじまりである。5分後、Cがドミトリーに突入。安堵の畑本にむかってディベヒ語で声高に怒り出す。即刻家を飛び出すと、外で待っていたDとともに再突入。2人して目を吊り上げ、ディベヒ語でがなりたて、畑本を指差しながら叫び続ける。

そこのところへ、E、F、Gの3人が強行突破の波状攻撃でダメおしにかかる。畑本は完璧にパニックであった。まわりを謎の男達に囲まれ、訳の分からない言葉でこれでもかこれでもかと攻撃され続けられる。

「アイアム、コウベこうこう、・・、コウベハイスクール・・、マイティーチャー・・」と畑本はハガキを男達に向け、しどろもどろの英語を泣きそうな声で発していた。小便をちびるかもしれない。終演である。

「エーイ(おーい)、キークラニー?(なにしてるん)」とサイトウが部屋に入っていく。畑本と視線があったがすぐに視線は外され、畑本は男達に向ってなにかしゃべっている。

ゲッ、わかってない!?、「はたもと!おれやおれ!」

「えっ!?、……せんせえーーーー!!!!!」
by saitoru1960 | 2004-03-19 15:55 | モルディブ

心動かされたことを忘れぬように


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