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クウェートの公衆便所で

いよいよ任期も折り返しを過ぎた頃、選手を引き連れ50日間の海外試合の旅に出たことがあった。海外から招待される国際大会は、基本的に飛行機代も宿泊代も主催者側が出してくれるため、「ただ」で外国に行ける絶好のチャンスである。

モルディブには陸上競技場がなく、選手権大会と銘打っても所詮サッカー場の芝生の上に白いペンキをスプレーで吹きつけて作った学校の運動会のようなものなので、世界で公認される記録は出しようがない。詰まるところ、海外での試合参加が唯一公認記録樹立のチャンスでもあるのだ。

南アジア大会(パキスタン・イスラマバード)、イスラミックオリンピック(クウェート)、アジア陸上選手権(インド・ニューデリー)と3つの大会が連続したため、出場メンバーは少しずつ入れ替わりながらも、私自身は一度もモルディブに帰ることなくひたすら旅の途中にあった。

クウェートでイスラム教を国の宗教にしている国々を集めて行われたイスラミックオリンピック大会でのこと。

開会式で電光掲示板に浮かぶ流れるような美しいアラビア文字を眺めながら、周りにアフリカの国の人々がかなり濃い密度で並んでいることは肌の色で実感できていた。イスラム教は砂漠でうまれ、仏教徒の3倍弱ほどの人々(約9億人)が信仰している世界で2番目に信者の多い宗教のため、大会自体のレベルはオリンピックでメダルを取るような記録もでたりするほどではあったけれど、私は何よりもイスラム教徒だけで行われている競技会というものに興味を覚えた。

主催者側は参加者に対して歓迎の催し物として小さな遊園地を貸切り、パーティーを開いてくれた。小さな島国のモルディブ人が物怖じして他の国の人たちと気軽に話すことができるのかな、と思っていたのだけれど、どうしてどうして、さまざまな国の選手たちとジュースを飲みながら(イスラム教ではお酒は禁止)会話を弾ませていた。

大きさ的には須磨の水族園くらいの小さな遊園地ではあったが、そんなものを見たこともないモルディブの選手たちは初めての遊園地に大いに盛り上がり、キャーキャー言いながらメリーゴーラウンドやぐるぐる回る椅子に乗ってはしゃいでいた。

さて、尿意をもよおしてきて公衆便所に行った時のことである。

モルディブの人達は基本的に小便を座ってしている。マーレでの練習の合間にも、「コーチ!」といって自分の小指を立て(これがおしっこの合図)横っちょの防波堤を越えて波打ち際まで行き、座りながら用を足していたりするのである。終わると海の水を手ですくいちょいちょいとおちんちんをきれいにしているのだ。

大便後もおしりを水で洗うし、1日5回のお祈りの時もきちんと、顔、手、足、口、耳までも水で洗ってきれいにしているので、基本的にイスラム教の人達はきれい好きな人達が多い。(と、私はモルディブ人を見る限り思っている。)

クウェートの公衆便所には当たり前ではあるけれど男性用小便器がついていた。選手たちの立小便姿をみるのも珍しいことなので横に並んで、

「やりにくくないか?」

などと話しながら一緒に小便をしていると、ふと便器ひとつひとつのしきりの上にしゃれたじょうろのようなものがあるのに気づいた。 きちんとどちらかのしきりの上にじょうろは乗っていて、なんなんやろ、と眺めていると、用をし終えた彼らはごく自然にそのじょうろを手に取り、まだズボンから出ている一物に水をかけているのである。

ためらもないその行動に、異国であり異文化のクウェートにあっても、まぎれもなく彼らは同じイスラム教徒なのだとしみじみ考えさえられた瞬間であった。
by saitoru1960 | 2004-12-28 16:03 | アジア

心動かされたことを忘れぬように


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