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大津波がモルディブを越えた

「コーチどうしたん?」と隣のイスラトからふと尋ねられた。 「あれはなんやろ?」バスの車窓に現れては流れ過ぎる、道端の見慣れない形のものに気を奪われていた私は、再び現れたそれを指差し逆にイスラトに聞き返した。

パキスタンの古都ラホール。首都イスラマバードで行われる南アジア大会出場のため、モルディブ陸上競技チームはサッカーモルディブ代表とともに事前の合宿を行っていた。  

ラホールの中心部にはありとあらゆる生命がひしめき合いながら混在していた。馬犬猫驢馬駱駝自転車自動車二輪車老人若者子供幼児乳児塵糞埃喧騒罵声・・。潔癖症には到底堪えられない混乱した状況下で、人々は元気に笑顔で、実にパワフルに商売をし、飯を食い、排泄をしていた。

外・内装ともにギンギンど派手に飾り立てられた我々を運んでいるバスは、、車内にヒンディー音楽をギュンギュン響き渡らせ、他のバスと勝負でもしているかの如くカーチェイスを繰り広げながら不必要に先を急いでいた。

ドライバーは狭い道が多いため追い越すときにはセンターラインを越えて走るのは当然の運転テクニックで、対向車とぶつかりそうになってもクラクションをけたたましく響かせながら、「逃げたら負け」の男の掟があるかのようにかつかつの所まで元の道には戻らず、おーーっ!!と叫びそうになることが幾度となくあった。ひっくり返り破損したバス、トラックをラホールで何台見た事か。

窓から眺めていると、道の脇に新しい盛り土が時々現れては後方へと流れていくことがしばしば起こってきて気になり始めていた。何かイスラム教国パキスタン特有の文化でも関係しているのかと考え始めたとき、イスラトに声をかけられたので聞いてみると、即座に、あれは人だよ、と教えてくれた。墓標もない、道端のただの土盛り。

死んだ人を掘った穴にただ埋めただけの埋葬。イスラム教徒は土葬すると知ってはいたけれど、あまりにも無造作な墓に、改めて死者に対する宗教観の違いを感じさせられたのであった。

マーレにある墓場の地面の高さは普通の土地よりも2mほど高くなっていた。島の面積が小さい上に超過密状態の人口密度のため、死んだ人を埋葬する場所さえままならないので、上へ上へと重ねて土葬を続けていくのである。墓石もなく、墓参りをする習慣もないイスラム教徒ならではの埋葬方法。初めてその話を選手たちから聞いたとき、わたしの下宿から目と鼻の先にあるその一画へ夜近づくことに恐怖を感じ、火の玉とか見たことないのか?と尋ねると、たまに青白いのが出るみたいだけど、と冗談か本当なのかわからない笑顔で答えてくれたのであった。

年末にインド洋の沿岸諸国を襲った津波により、23万人を超える死者が出た。スマトラ島からインド洋を越えてアフリカまで届いた津波は、スリランカで10mもの高さになり線路から電車を弾き飛ばしていた。温暖化で海面が上昇したら国がなくなる、と国連で大統領が力説している、平均海抜が2mに満たないモルディブが消えてしまうには十分すぎる高さである。覚悟を決めかけていたところに、「マーレ島3分の2浸水」の一報が入った。浸水の文字に安堵はしたが、通信が遮断されている小さな地方島のことが再び気になり始めた。全島で死者行方不明者あわせて108人。4000戸が倒壊した。

たった一度の地震で18万人近くのイスラム教徒が亡くなり、コーラン(イスラム教典)にのっとって、メッカの方角に頭を向け土葬されたことになる。
by saitoru1960 | 2005-01-25 16:05 | モルディブ

心動かされたことを忘れぬように


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